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商品のご注文はこちら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『 炎の商社マン(上) 第1章 』より・・・・・・・
昭和44年(1969)1月のある昼下がり、一人の男が大阪中之島にある中央公会堂の階段に腰をおろし、長い間座り込んでいた。
1月にしては暖かい日ではあったが、それでもオーバー・コートを着ることもなく、頭を深々と下げた格好で身動きもしないのは異常な光景といえた。
ホームレスにしては、身だしなみが良すぎるその男、高木源一郎は、名門商社トーセンのハンブルグ支店長兼欧州繊維部長という要職にあった。そんな立派な肩書きを持つ男が、なにゆえに冬空の下、オフイス街を離れた場所に、オーバー・コートもなく座り込んでいなきゃならんのか、当の高木自身がサッパリ分かっていなかった。
「まる光さんまでが・・・・・」と、高木がつぶやくのを場所柄耳にする者は誰もいない。
ようやく顔をあげた高木の両目は充血していて、まだ涙の跡が光って見える。いい中年の男がひとしきり泣いたものとみえた。顔には深いシワが何本も刻まれ、苦渋のさまがより際立っていた。
中央公会堂前の広場のかなたに、木村長門守重成殉忠の碑が建っている。ふと我にかえった高木が、自身のあり様を不審げに辺りを見回したとき、目に飛び込んできたのが、この碑であったが、はて木村長門守ってのは何者だったかそんなことは今の高木にとっては、どうでもよいことであった。
「オレはどうして、こんな所に居るんだろう」。
ぶるっと震えた高木は、あらためて自分がオーバー・コートを着用していないことに気づき、頼りにしていた光柳専務から、「今はお前のことなんぞに関わりあってる暇はない。出て行ってくれ」と、冷たく言い放たれてそのまま会社を飛び出し、足の赴くままに堺筋を北上して、中之島公園にまで夢中でやってきた、自分の足取りを反芻していた。
「すべては、あん畜生のせいだ。とんでもない疫病神を抱えこんだものだ」。
「それにしてもトーセンも変わってしまった。合成繊維の連中がいつの間にあんなに鼻息が荒くなったんだろう。それにひきかえ綿糸布部門の沈滞ぶりは情けないほどだ」。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『 炎の商社マン(上) 第1章 』より・・・・・・・
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商品のご注文はこちら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『 炎の商社マン』 上巻より・・・・・・
「欧州繊維部長としてのオレが何も知らされていなくて、一兵卒のお前が、いろいろと並べてる。組織がたるんでいる証拠じゃないか」
「よくそんなことが言えますね。組織のタガをゆるませて平然と5年も無駄飯食ってた人に、バカらしくて本社も連絡なんか取る気が無いでしょう。貴方はご自分が意志決定者だと思ってられるようですが、決定はすべて本社ベースで行われます。それから、えらく興奮して居られるようですが、早くもキミからお前に格下げですか。会社なんだから、キミと呼ぶぐらいの落ち着きを保って欲しいもんですな」
「お前なんか、お前で充分だ。キミなんてガラか」
「だんだんホンネが出てきたようですな。稼ぎも無い欧州繊維部長なんて、ただの現場見回りみたいなもんで、誰も司令官なんて思っちゃいませんよ。せいぜい自覚して本社の信頼を取り戻す努力を
なさることです」
「オレが司令官じゃない? そんなら何か? 貴様が新任の司令官だとでも言うのか!」
「ほう、今度は貴様ですか。そんなに頭に血を上らせなくても話は出来るはずですけどね。血圧いくつあるんです」
「貴様、オレに喧嘩売る気か」
「困ったお人だな、聞きしにまさるオッサンやねぇ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『 炎の商社マン』 上巻より・・・・・・
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黒服がワインはどうしますかと聞く。
「専務は、赤白に拘る方ですか。魚介だから白とか」
「いや、そんなこだわりを持つほどのワイン通じゃない。
せっかくだから東ヨーロッパのワインがあれば、
思い出になるな」
中原が黒服に訊ねたら「雄牛の血」の名で知られる
ハンガリーの銘酒があった。
武田がOKしたから、それをオーダーする。
エグリ・レイカベルはハンガリー人が誇りとする
歴史的事実に基づく名前である。オスマントルコに
東南欧が席捲されたとき、ハンガリーの勇士たちが
孤城に籠もり、激戦の末に遂に城を守り抜いたという
歴史である。
勇士たちを称えるべく「雄牛の血」という名が与えられ、
その名がそのまま銘酒の名前とされている。
日本人が聞いたら、ちょっと気持が悪い名だが、
オーストリアでもドイツでも、エグリ・レイカベルは名高い。
食事をすませ、心身ともに疲れたからと武田が部屋に
引き取るのを見送り、中原は寝るにはまだ早いし、
バーカウンターに移ってブランディをロックでと注文。
ちょうど武田と入れ替わるように二人連れが
食卓に着いたが、バーカウンターに座り背を
向けている中原は気づかなかった。
二人連れは誰あろう、アリババと小沢吾郎だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『 炎の商社マン(下) 』より・・・・・・・
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商品のご注文はこちら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『 炎の商社マン 』 上巻 より・・・・・・
東繊は中原信介にとって、小学校3年生の幼いときからの憧れの職場で「ボクは将来必ずあの会社に」と心に決めた会社であった。
父の仕事の関係から大連に生まれ、奉天から新京へと転校した信介が偶然手にした一冊の「黒革の手帳」。それは「東繊手帳」として世に知られた分厚いもので毎年のお歳暮に関係先に配られるものだった。
新京の同じ隣組仲間に戸川という二年生が居り、兵隊ごっこで信介の当番兵を務めており、上官である信介に貢物として進呈されたものが「東繊手帳」だったのである。
戸川の父が東繊の新京支店長(後に専務)で、何冊かを家に持ち帰った中からの一冊が信介の手元にきたことになる。
革の匂いと独特の手触り、2センチはある分厚い中味。そして何よりも幼い信介の心を捉えたのが、見開きに掲げられた大阪高麗橋の本社ビルの威容を写した写真であった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『 炎の商社マン(上) 』より・・・・・・
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『 炎の商社マン 』 下巻 より・・・・・・・
「稟議書ですか。そんなもん書きませんよ」
「第一、ボクは今までにも稟議書なんて書いたこと一度もありませんけれど。いい加減、勝手に新分野を開拓させてもらいましたが。あの稟議制度やめたらどうですか。関係ない連中にまで、いたずらに案件を知らせるだけの代物で、百害あって一利もありません。お互いリスクのなすりつけ合いのためのハンコ取りですから」
「お前、今まで稟議書書いたことないって、それ本当か。ようも勝手にいろんなこと、誰の承認印も
無しにやってきたな」
「そのかなりの部分が、部長いや違った、専務の管轄下での仕事でしたけど。専務はボクが廻した稟議書なんてご覧になったことないでしょう」
「う〜む、社内規定違反行為の常習者だったか」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『 炎の商社マン 』 下巻 より・・・・・・・
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