
今は亡きヘルベルト・フォン・カラヤン
が、最後の日本公演のために来阪
したのが、八八年の初夏だったと
記憶する。シンフォニーホール二階の、
右手ベランダ席で、指揮者の横顔が
よく見える席だった。
曲目は「展覧会の絵」と「ボレロ」。
ボクはそれまで、ムソルグスキーと
いう作曲家を、さして好きではなかった
のだが、一人では歩くこともままならぬ
身体で、懸命にタクトを振るカラヤンの
指揮のもと、実際に展覧会の場に
居あわせて、次々と素晴らしい絵画
が目の前に展開されると思える、演奏
に感動したことを、まるで昨日のこと
のように、鮮明に記憶している。
カラヤンとは、これで永遠の別れとなる
ことを、観衆のすべてが知っていて、
だから演奏を終えたカラヤンへの、嵐の
ような拍手はいつまでも鳴り止まず、
カラヤンもまた、それに応えて、不自由
な身体を人の肩を借りながら、何度も
何度もアンコールへの返礼に姿を
現わしたのだった。
大勢が花束を抱えて、カラヤンの元に
殺到した。
あれは素晴らしいシーンだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『 アルプスの小川 』 オーストリアの館 より・・・
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