
黒服がワインはどうしますかと聞く。
「専務は、赤白に拘る方ですか。魚介だから白とか」
「いや、そんなこだわりを持つほどのワイン通じゃない。
せっかくだから東ヨーロッパのワインがあれば、
思い出になるな」
中原が黒服に訊ねたら「雄牛の血」の名で知られる
ハンガリーの銘酒があった。
武田がOKしたから、それをオーダーする。
エグリ・レイカベルはハンガリー人が誇りとする
歴史的事実に基づく名前である。オスマントルコに
東南欧が席捲されたとき、ハンガリーの勇士たちが
孤城に籠もり、激戦の末に遂に城を守り抜いたという
歴史である。
勇士たちを称えるべく「雄牛の血」という名が与えられ、
その名がそのまま銘酒の名前とされている。
日本人が聞いたら、ちょっと気持が悪い名だが、
オーストリアでもドイツでも、エグリ・レイカベルは名高い。
食事をすませ、心身ともに疲れたからと武田が部屋に
引き取るのを見送り、中原は寝るにはまだ早いし、
バーカウンターに移ってブランディをロックでと注文。
ちょうど武田と入れ替わるように二人連れが
食卓に着いたが、バーカウンターに座り背を
向けている中原は気づかなかった。
二人連れは誰あろう、アリババと小沢吾郎だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『 炎の商社マン(下) 』より・・・・・・・
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