
東繊は中原信介にとって、小学校3年生の
幼いときからの憧れの職場で「ボクは将来
必ずあの会社に」と心に決めた会社であった。
父の仕事の関係から大連に生まれ、奉天
から新京へと転校した信介が偶然手にした
一冊の「黒革の手帳」。それは「東繊手帳」
として世に知られた分厚いもので毎年の
お歳暮に関係先に配られるものだった。
新京の同じ隣組仲間に戸川という二年生が
居り、兵隊ごっこで信介の当番兵を務めて
おり、上官である信介に貢物として進呈
されたものが「東繊手帳」だったのである。
戸川の父が東繊の新京支店長(後に専務)
で、何冊かを家に持ち帰った中からの一冊
が信介の手元にきたことになる。
革の匂いと独特の手触り、2センチはある
分厚い中味。そして何よりも幼い信介の心
を捉えたのが、見開きに掲げられた大阪
高麗橋の本社ビルの威容を写した写真で
あった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『 炎の商社マン(上) 』より・・・・・・
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