小林真一の作品を読むブログ きらめく星座社★

こんにちは。 神戸から生まれた出版社、『きらめく星座社』です。 私たちが送りだす、小林真一・著の作品を、少しずつご紹介していきます。

【アルプスの小川】

 アルプス


一通り見るべきものを見ては感嘆し、
宮殿を後にする直前の一期一会。

宮殿のどこかを修理でもしていた
のであろうか、作業服姿の二人の
青年がやってきて、エルベを
見下ろすベンチに腰掛けて弁当を
広げだした。

眼が合った。

何か物言いたげな、やさしい眼を
彼らはしていた。ボク等は日本
から持参のカリントウの袋を開けた
ところだった。

「日本の駄菓子の味を試してみるかい」

とボクは声を掛け、袋の中身を
彼等の手のひらに移してやった。
彼らはしげしげとカリントウを眺めて
から味わい、

「美味い、美味い」

と口々に言った。ボク等はまだ封
を切っていない「草加煎餅」の袋
を持っていた。「そうだ、この方が
良いかもしれない。こいつはビール
にすごく合うんだ。仕事が終わって
から一杯やる時の楽しみにな」と
袋ごと進呈した。

「これは何で出来てるんです?」

「米だよ。日本人の主食が米だって
知ってるだろう」

そんな会話を交わしているうちに、
船の時間が来てボク等は別れた。

船着き場までは歩いて五分ぐらい。
下船する人が多く十分ばかし
待たされた。やがて船は下流の
ドレスデンに向けて出航し、しばらく
して先ほどのベンチにさしかかった。
なんと二人の青年は立ち上がり
両手を振ってボクたちを見送って
くれていた。

激しく感動した。

彼等はおそらく生涯で初めての
日本人に出会い、食べたことの
ない妙なモノを与えられ、ほんの
短い時間をしゃべり、お互いに
名乗りもせず、ただそれだけの
相手に手を振って別れを告げる。

涙が出た。

彼等とは永遠に再会することは
無いだろう。



・・・・・・・・・・・・・『 アルプスの小川 』 ドレスデンのエルベ観光船 より・・・




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